エディターコラム
「ノンシリコン」は本当に髪にいいのか
「ノンシリコンだから髪にやさしい」。そう思って選んでいる方は多いかもしれません。シリコンは何のために入っていて、抜くと何が変わるのか。ヘアケア商品をつくってきた立場から、言葉のイメージと中身の違いを、できるだけ正直にお話しします。
こんにちは。サロニー編集部の渡井です。水曜日は、美容業界の「裏側」を、作り手の目線でお話ししています。
第3回のテーマは「ノンシリコン」です。ドラッグストアのシャンプー売り場に行くと、この言葉を大きく書いたボトルがたくさん並んでいます。「シリコンは髪に悪いらしい」「毛穴に詰まるって聞いた」。そんな声を、私もこれまで何度も聞いてきました。
先に結論めいたことを書いておくと、「ノンシリコン=髪にいい」「シリコン入り=髪に悪い」という単純な話ではありません。どちらにも、そういう設計にしている理由があります。今日はその理由を、つくる側の話としてお伝えします。
そもそも、シリコンは何のために入っているのか
シャンプーやトリートメントに入っているシリコンは、ざっくり言うと「髪の表面をなめらかにするための成分」です。成分表示では「ジメチコン」「アモジメチコン」「シクロペンタシロキサン」など、「〜コン」「〜シロキサン」といった名前で書かれていることが多いものです。
髪は、表面がキューティクルという薄いうろこのようなものでおおわれています。カラーやパーマ、ドライヤーの熱、毎日のブラッシングなどで、このキューティクルは少しずつ傷んでいきます。傷んだ髪は表面がざらつき、指通りが悪くなり、からまりやすくなります。
シリコンは、その表面に薄い膜をつくって、すべりをよくします。ぬれた髪どうしがこすれ合うのをやわらげるのが、いちばん大きな役目です。シャンプーのあとに髪がきしまない、ドライヤーのときにブラシが引っかかりにくい。これはシリコンが得意とするところです。
開発の現場では、シリコンは「とても扱いやすい原料」として知られています。少ない量で手ざわりが大きく変わり、においも少なく、ほかの成分ともなじみやすい。だからこそ、長いあいだ多くの商品に使われてきました。
「ノンシリコン」が広まった理由
では、なぜ「ノンシリコン」がこれほど広まったのでしょうか。
私の見てきた範囲でいうと、きっかけは「シリコンが頭皮や毛穴に残る」「髪にたまって重くなる」という話が広まったことでした。そこに、「シリコンを使っていないこと」を売りにした商品が次々に出て、店頭で目立つようになっていきました。
ここで、作り手として正直にお伝えしたいことがあります。「ノンシリコン」は、何かを足したという意味ではなく、シリコンを「使っていない」という意味でしかありません。そのシャンプーが髪にやさしいかどうかは、シリコン以外に何が入っているか、どんな洗浄成分を使っているかで決まります。
シャンプーの中身の大部分は、水と洗浄成分です。洗う力の強さ、泡立ち、すすいだあとの感じは、主にこの洗浄成分の選び方で変わります。シリコンが入っているかどうかは、その上にのせる「仕上がりの調整」のひとつ、と考えてもらうと分かりやすいと思います。

抜くと、何が変わるのか
シリコンを抜いたシャンプーをつくるとき、私たちがいちばん苦労するのは「きしみ」です。
シリコンがない分、洗っている最中やすすいだあとに、髪どうしがこすれやすくなります。とくに、カラーをくり返している方や、髪が長い方は、きしみを感じやすいことがあります。そこで、ノンシリコンの商品では、植物由来の油分や、ほかの「すべりをよくする成分」を組み合わせて、きしみをおさえる工夫をしています。
つまり、ノンシリコンのシャンプーでも、何かしらの方法で髪の表面をなめらかにしていることが多いのです。「何も膜をつくらない、まっさらなシャンプー」というわけではありません。
一方で、ノンシリコンのよさもあります。髪が細い方や、ふんわりさせたい方の中には、シリコン入りのものだと「ぺたっとする」「根元が立ち上がらない」と感じる方がいます。そういう方には、軽い仕上がりのノンシリコンが合うこともあります。
私の知人にも、シリコン入りからノンシリコンに替えて「軽くなって扱いやすくなった」という人と、「ごわついて毎朝まとまらなくなった」という人の両方がいました。合う・合わないは、成分の名前より、自分の髪の状態で決まります。
「毛穴に詰まる」は本当か
よく聞かれるのが、「シリコンは毛穴に詰まるのでは」という心配です。
シャンプーに入っているシリコンは、すすぎの段階でほとんど流れ落ちるように設計されているのが一般的です。少なくとも、普通に洗って普通にすすいでいる範囲で、「シリコンが毛穴に詰まって髪が抜ける」といった話を裏づける確かな根拠を、私は見たことがありません。
むしろ気をつけたいのは、すすぎ不足のほうです。シャンプーでもトリートメントでも、洗い流すものが頭皮に残ると、べたつきやにおい、かゆみの原因になることがあります。成分を気にする前に、すすぎの時間を見直す。これは、作り手としていちばん伝えたいことのひとつです。
開発の現場で、使い心地を確かめる試験をするときも、すすぎ方は必ず決めて行っていました。同じシャンプーでも、すすぐ時間が短いと、仕上がりの重さやべたつきの感じ方がまるで変わってしまうからです。目安として、洗う時間の倍くらいはすすぐつもりで、耳のうしろやえり足など、流し残しやすいところまで意識してみてください。
トリートメントやコンディショナーは、毛先を中心につけて、頭皮にはなるべくつけないようにする。それだけでも、頭皮のべたつきが気になる方は、ずいぶん変わることがあります。

選ぶときに、見てほしいところ
では、何を基準に選べばいいのか。私がよくお伝えしているのは、次の三つです。
ひとつ目は、自分の髪の「困りごと」です。きしみ、広がり、からまりが気になる方は、シリコン入りのものや、すべりのよい仕上がりのものが合いやすいことがあります。ぺたんこになる、根元のボリュームがほしい方は、軽い仕上がりのものを試してみる価値があります。
ふたつ目は、シャンプーとトリートメントを分けて考えることです。たとえば、シャンプーは軽いものにして、トリートメントで毛先をしっかり整える。こういう組み合わせ方もできます。全部をそろえなくても大丈夫です。
三つ目は、ラベルの大きな言葉だけで決めないことです。「ノンシリコン」「〇〇フリー」という言葉は、目にとまりやすいように大きく書かれています。それ自体が悪いわけではありませんが、大きく書かれた言葉は「何が入っていないか」であって、「自分に合うか」ではありません。
いちばん確かな答えは、髪をさわった人が持っている
ここまで書いてきて、結局「人による」という話になってしまいました。でも、それが作り手としての本音です。
だからこそ、迷ったときは美容師さんに聞いてみてください。カットやカラーのときに、美容師さんは髪の太さや傷み具合、頭皮の状態を手で確かめています。「今のシャンプー、ノンシリコンなんですけど、合っていますか」。そのひと言で、思っていたより具体的な答えが返ってくるはずです。
前回の「サロン専売品と市販品」の話にも通じますが、いちばんのヘアケアは、自分の髪を知っている人に相談できることだと、私は考えています。
静岡にも、髪の相談にていねいに乗ってくれる美容室がたくさんあります。シャンプーの時間が気持ちいいヘッドスパのお店で、頭皮の状態を見てもらうのもおすすめです。
